私の計画のうちになかったことが、神の計画のうちにはある。
――エディット・シュタイン

"Was nicht in meinem Plan lag, das hat in Gottes Plan gelegen."
――Edith Stein


<序曲>


「これから暫らく、帰って来れないんだって?」
しんとした廊下。
冷たく澄んでいた空気が彼の声で静かに震えた。
「ああ。」
「そう。怪我、しないでね。」
「誰に物言ってる。」
「じゃあ、任務中はちゃんと健康的な生活送ってね。よく食べてよく寝ないと駄目だよ。」
「お前はオレの保護者か。」
少年は、呆れたように苦笑を浮かべて、背を向ける。
彼はなんとも言えない顔で、その少年が出ていく様を見つめていたが、姿が扉の向こうへ消えてしまう前にと、一思いに口にした。
「少なくとも!仲間だよ!」
張り上げた声はその場には少し大きすぎて、壁に当たって跳ね返った。
内容よりも音量に驚いて、少年は僅かに振り返ったが、何も言葉を返すことなく、そのまま扉を潜り抜けていった。

少年の纏う雰囲気にはいつも拒絶が混じっていて、どんな優しい言葉も届きはしない。
届くのはいつも裏切りと嫌悪の感情だけ。
だけど、いつの日か伝わる日が来ればいいと思うから。今は何度も紡ぐだけ。

「またね、エウロパ。」
彼の声は無機質な壁に吸い込まれた。




end.

――序曲・完
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